先日、塩原ルーフのカランバ 三/四段を完登することが出来た。2024年春からトライを開始し同年10月に完登。期間としては半年、日数としては延べ8日を費やした。長いような短いような・・とても充実した時間を過ごすことができた。
私にとって非常に難しく、そして思い入れの深い課題になったので今の気持ちを文章にしておこうと思う。
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思えば、塩原ルーフというワードは外岩を始めた頃からよく耳にしていた。私の初めての岩場は茨城の笠間だったが、あっという間に岩の魅力にハマりネットの情報を集めトポを買い漁った。どこかで「塩原ボルダーは段以上の課題が多く上級者向け」という文言を見てワクワクしたのをよく覚えている。
段を登れるようになり、「千」をトライするようになり、初めて塩原ルーフに足を運んだ。
ルーフの中は独特の雰囲気があるように感じた。激つよクライマーらが180°の壁に張り付く姿を見て畏敬の念を感じると共にいつかここの課題を登りたいと感じ強く憧れた。
いつしか二段がコンスタントに登れるようになり三段もそこそこ手が出るようになった頃、コプリス2/3段を落とすことが出来た、塩原ルーフの限定解除がなされた気がしてルーフに挑戦することを決めた。
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初日
最初の感想は「いやこれ無理でしょ」だった。YouTubeで見ていた初手の一本指、これに差し込みにいく動きがまずしんどい。何度か試すうちに指を入れることには成功したが全く力が入らないうえ一発で指の横の皮がめくれ悶絶した。完全なルーフというジムではほとんど出てこない動きに対応できず足も切れまくりで内心心が折れていた。
二日目
この課題のみに集中しパート練を開始。キツイパートはあるが今の実力で不可能なムーヴは無いことがわかり俄然やる気が出る。4,5手目の右手寄せと中盤左手アンダーからの右手リング取りが苦手。この頃から減量や筋トレ、サーキットの割合を増やした、当時の体重は59kgほど。
三日目
突然初手の痛みが薄くなり課題への苦手意識がなくなった。ルーフにおいて重要な「脱力」が出来るようになりワンフィンガーへの負荷が軽減されたのだと思う。また、どうにか全パートのバラシに成功。しかし常にフルパワーなうえバラシは7分割、通せるビジョンは全く見えなかった。
四日目
初手は完全に安定したが4,5手目の寄せが相変わらずしんどすぎた。右手を寄せに動かした瞬間に強く振られてしまい足も切れてしまう。それ以外のパートは随分安定してきておりアンダーからの右手リング取りで足を切らせない方法が分かったのが大きな収穫。3分割まできた。
五日目
カランバへの熱量と思い入れが強まってくる。一緒にトライしていた友人の熱い完登を見たのも大きい。ついに2分割。
六日目
梅雨前最後、ついに通しトライを始めた。
相変わらず4,5手目寄せの精度が悪く中盤以降に突入出来る回数が少ない。上手く通ると右手リング取りまで行って力尽きる感じ。60~70%ほどは通せるようになってきている。
その後本格的に梅雨になってしまったので秋口までサーキットとオープントレ、体幹トレを行い登り込んだ。
7日目
10月、待ち望んでいたルーフとの再会。劇的に何か持てるようになったわけでは無かったが、一つ一つのムーヴに対する物理面の解像度が上がっていた。特に4,5手目の理を理解出来るようになっており毎回中盤以降まで入れるようになった。終盤カチ取り前まで高確率で通るようになり光が見えてきた。80%くらいまで通るようになった。
8日目
7日目から3日間、食事と水を減らし3kg一気に落として臨んだ、朝の体重は55.6kg(169cm)。
抜けのガバで懸垂をした瞬間に体がいつもより軽くなんだかいける感じがした。
午前中、初めてカチ取りを超えヒールを掛けるところまで通せた、ヒールの掛かりが浅く抜けてしまったがこの課題に向き合ってから初めて「完登のビジョン」が明確に見えた瞬間だった。
午後イチ、35分レスト後の本気トライ。個人的核心だった4,5手目の寄せはもはや得意になっていた。
リング取りの時点で先ほどよりヨレを感じ自然と声が出た。一番しんどいアンダーからのカチ取りは前回より脱力を深くすることを意識しガッチリとキャッチ。
ヒールを掛け左手を取った時、かかりが浅いことに気付いたが直す余裕はもう無かった、死に物狂いでフルクリンプ。右足トーを掛け、右手を寄せた。
いつもなら近いはずのラストガバ取りはここまでの疲労がとにかく重く叫びながらギリギリ届かせた。悲鳴に近い声を出しながら3級パートへ、そこから先はとにかく必死でとにかく足が震えた。通しの疲労はもちろんあるが、ここまで来て落ちたくないという恐怖、そして登れるかもしれないという高揚の狭間だったと思う。
足が震えすぎて抜けるんじゃないかと思いながら最後の右足を上げた。
水溜りの前まできてやっと呼吸が整う。
通せたことを自分でもまだ信じられなかった、塩原ルーフの課題を完登することが出来た。
下を見たら何度かムーヴを教えてくれたお兄さんの笑顔が見えた、一番苦手だった4,5手目寄せを教えてくれたお兄さんだ。
バラカの方に居たはずだけどタイミングよく来てくれていたらしい、完登を見てもらうことができめちゃくちゃ嬉しかった。
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カランバを通して多くを学ぶことができた。特にルーフ特有の重心移動、そしてムーヴ一つ一つに対する理詰めの大切さ、これらは今後のクライミング生活に大きな影響を与えてくれると思う。
ルーフ特有の重心移動としては、手の真下に重心を持ってくることが非常に重要だった。
課題序盤から中盤にかけて右手を左手の横に寄せる動きが2-3回出てくる。このとき、重心位置を左手の真下にくるように横移動させてあげると右手がフリーになり楽に寄せられるようになるし振られも少なくなる。
ボルダリングは基本短距離走なので登れればOKという感覚になりがちだったが、手数の多いルーフではムーヴ一つ一つを研究し最大まで省力化することが重要だった、パワーでこなすこともできるがそれでは繋がらない。
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カランバを登れたことにより、カタルシス・ハイドラという大きすぎる壁の限定解除がなされた。時間を掛けやっと登れたカランバだが、恐ろしいことにこれはルーフの登竜門なのだ。
しかし今すぐ上記二つに挑戦するのは少し時期尚早かと感じる。いま暫くはオモルリス・バラカ・ニコルなどを一つずつ攻略しながらハイドラに挑戦していきたいと思う。
カランバを登れたことで何か明確に変わったことがあるわけではないが、今まで一部の選ばれた人間しかトライすら許されないと感じていたルーフの高難度課題たちが時間を掛ければ登れる気がしてきたのが大きな心境の変化でありルーフの登竜門をくぐってみての感想となる。継続は力なりだ。
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登るためにやったことメモ
- 145°強傾斜のセッションに参加
- ラスト30分は5級〜1級までサーキットトレーニング(落ちても登れても全課題一回)
- 力が入らなくなるまでオープンぶらさがり(そこそこガバのやつ)
ちなみにカランバを登るためには劇的な指の強さは必要なかった。
必要なのは最低限の保持力、持久力、オープン力。
なのでサーキットは3本指オープンと省力化した動きにフォーカスして行った。カランバに関してはほぼカチを使うシーンがないためとにかくオープン保持に慣れることが肝要だと思う。